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身軽な旅行がしたかったな

握り慣れない借り物のウォンドで、開かなくなった非常口を叩く。

耳障りな大きい金属音に躊躇はあるが、

かといっていつ爆発するとも限らない密閉空間にいつまでも引きこもるわけにもいかない。

いくら丈夫といえど、砦にはなりえないのだ。それを宇宙船に求めるのは酷というもの。

むしろ操作不能に陥ったにもかかわらず、生きて着陸できた事実に感謝しなければ。今は。

歪んだ扉をひたすら叩き、つなぎ目すらも歪んだところで、

強引に蹴りを入れいびつな出口をこじ開ける。

派手な音と共に汗ばんだ肌を撫でるのは、湿った生温かい空気。

少なくとも水はあるという事だろうか。

焼け死んだり凍え死んだりする心配がないのはまぁありがたい。

一応改めてレーダーで危険が無い事を確認してから、数歩下がっておもむろにひざを折り、

力なく横たわった体を担いでさっさと外に出た。

どんな場所でも、壊れたキャンプシップの中よりはましだろう。

少し歩いてシップから距離を開けると、適度な大きさの岩が目に入る。

身を隠すのにちょうどいい。

大きな岩陰にまず借り物のウォンドを放り込み、続いて担いだ体をゆっくり下ろす。

手早く頭の位置を調整して気道を確保し、体温が逃げないよう上着でもかけてやる。

頭部の出血が大事ではない事は確認済みだ。止血もすでにしてある。

後はもう出来る事はほぼない。

そこでようやく息をついて、彼は思わずその場に座込んだ。

無意識に手を腰に回し、自分の武器を探る。

弓も刀もあった。

「これなら、しばらくは動き回れるかな。」

誰にともなく呟いてから、ようやくテオフィルは顔を上げ周囲の景色を瞳に移す。

 

――その場所は、息をのむほど美しかった。

淀んだ蒼い空、焼け野原のように黒ずんだ地面、そしてそれを覆う赤い川。

どれをとっても妖しく美しい。

そして頭上には、見知らぬ街並み。

一昔か二昔前ぐらいのビルディングだろうか、やや古臭い街並みが乱雑に空から”生えて”いた。

ダーカーに破壊されたものの回収できなかったシップの話は小耳にはさんだこともあったが、

これがそのなれの果てとでも言うのだろうか。

生々しいほど綺麗に残った街並み、しかし人の気配はしない。

レーダーにあるのはダーカーの反応のみ。

廃墟を喰う惑星、とでも言えばいいのだろうか。

誰も知らない歴史が、消えて無くなったはずの記憶が、

数え切れないほどこの場所に積み重なっていると思うと肌が泡立った。

最もテオフィルが悦んでいるのはその歴史的生物的な重要性ではなく、

それらを食いつくしているダーカー達の存在が故だったが。

 

しばらくそうやってぼんやりと物思いにふけっていたが、

やがて頭を一つ振って、今は役に立たない他愛ない想像を振り払う。

そして凝り固まった体をほぐすように大きく伸びをすると、

おもむろに立ち上がり隠れていた岩の上に這い上がった。

その場所がやや高台なのもあって、一番高い所に座ると周囲の様子がよく見える。

絶景だった。

そして、静かだった。

眼下でちゃぷちゃぷと遊ぶ赤い水の音が聞こえるほどに。

「……こんなにいるはずなのにまだ誰も来ないなんて、おかしいなぁ。」

誰にともなく呟く。

この疑問はキャンプシップに閉じ込められている時から抱えていた。

あれだけの騒音と衝撃を立てて着陸したのだ、ぱれていない訳がない。

偵察ダガンやクラーダの十匹や二十匹きても可笑しくはないのだが、未だにここは静かなままだ。

レーダーの反応は目を疑うほどあるにも関わらず、この状況は気味が悪い。

まるで好きに泳げと告げられているかのようだ。

普段であれば、喜び勇んでダーカー狩りの散歩にでも繰り出すところだが。

岩の上に座ったまま、器用に足を組んで頬杖をつく。

そして遊園地のアトラクションをおあずけにされた子供のような表情で、辟易とため息を吐いた。

許されるのであれば、今すぐにでも武器を抱えて駆けだしたかった。

通信機やメセタ、その他たくさんの細々とした”アークスとして必要なもの”をすべて投げ捨てて。

エネミーは少しずつおびき寄せて各個撃破しても良いし、

レーダー反応の密集地に飛び込んで死に物狂いで暴れまわるのもいい。

各所に散っている大型ダーカーに片端からちょっかいをかけていくのも素敵だが、

少し離れた場所でひときわ大きな反応を出しているダーカーだって見に行きたい。

この惑星なら、きっとどこでだって死ぬことができるのだ。

きっと、ほんの少し油断したり体力を使いすぎたら、それこそどこでだって。

通信不能がゆえに扱いはおそらく行方不明、誰かに知られることもない。

なんて理想的なのだろう。

誰にも責められず、誰にも恨まれずに、

きれいさっぱり蒸発することができるだなんて、夢のような舞台だ。

まるで専用の棺桶のよう。

独りなら喜んで飛び込んだのに。それなのに。

今日は、できないのだ。

非常に間の悪い事に、今日は、この心躍るアトラクションに身を投じる事はできないのだ。

テオフィルはまた一つ大きなため息をつくと、恨めし気に岩陰を振り返る。

横たわっているお荷物は、未だに目覚める気配を見せなかった。

目覚めたところで、一人の時のように身軽に走り回れはしない。

いつものように彼を引っ張らなければ。

口ばかり達者で肝心な時に役に立たないような男だが、置いていくのは気が引けた。

「……おまえがいなくなったら、きっとジェラルダインさんが寂しがるからね。」

呟いた言葉は誰の耳に入ることもなく、ただ虚しく空を泳いで消えていく。

余韻すらも完全に消えた頃、ようやくテオフィルは岩から滑り降り、安全な岩陰に座りなおした。

そしておもむろに自分の武器を手に取ると、手元の限られた資源を使い丁重に手入れを始める。

帰るための戦いの、準備をしなければ。

スイーツ・タイム

その場所は、いわゆるカフェだった。

決して大きくはない通りに面した、小ぢんまりとして温かなカフェ。

ショップエリアの片隅、他のエリアと行き来できるテレポーターにほど近い場所にあるので、

たまに前を通る程度でも、ガラス越しにちょくちょく見知った顔を見かけた。

有名ではないし洒落てもいないけれど、静かで一人や少人数でのんびりしするのに良い、

なんて声も時折彼女の耳に入るほどだった。

もっとも、甘いスイーツの看板を店先に出すカフェだ。

話題に出すのも、実際に見るのも、ほとんどが若い女性アークスだったが。

 

普段ならば、ただ前を通り過ぎるだけの店。

けれどもその時、彼女は少々の暇を持て余していた。

用事が前倒しで終わり、次の任務まで中途半端に時間が空いてしまったのだ。

こんな時でなければ、縁のない店かもしれない。

そう思ったジェラルダインは、木を模して造られた温かなカフェの扉を引いたのだった。

 

扉をくぐり、さっと店内を見渡す。

外装から想像できる通りの、温かな店内。

その一角に見知った顔を見つけ、ジェラルダインは思わず口を開いた。

「あら、テオフィル。」

女性ばかりの店内に、唯一存在する幅広の肩が少し上がる。

続いて短い黒髪の頭が持ち上がり、肩越しにジェラルダインを振り返った。

向けられた瞳はいつも通りに眠そうな光を放っていたが、少しだけ見開かれていただろうか。

「……あ、お疲れ様です。」

「お疲れ様。相席、いいかしら?」

「はい、どうぞ。」

答えを確認したジェラルダインは、小さな丸いテーブルをはさんだ反対側に回り椅子を引く。

タイミングを見計らってやってきたウェイターにコーヒーを一杯注文したのち、

ふと向かいのテオフィルの手元に目をとめた。

「あと、そうね、おすすめのスイーツは?」

「当店のお勧めは、こちらのホットケーキでございます。」

壮年のウェイターがメニューに載った写真を示す。

そこには真っ赤なソースと色とりどりのベリーが添えられた、見栄えの良いスイーツが写っていた。

テオフィルが食べているものとは違うようだが、任務前のエネルギー補給として悪くない。

それも一つ、と注文すると、ウェイターは一つ頭を下げてから厨房へと下がっていった。

その背を見送ってから、うつむき加減だったテオフィルが少し顔を上げる。

「……ジェラルダインさんって、案外食べるんですね。」

「そう? 体が重いからかしら。」

太っているという意味ではない。

重いキャストパーツを背負っているからという意味だ。

それを解っているのかいないのか、そうなんですか、と曖昧な返事が返ってくる。

そして再び、手元のスプーンを動かし始めた。

「それはプリン?」

「はい。」

「お気に入りなの?」

「結構。」

「私もそれにすればよかったかしら。」

お愛想として言いながら、プリンを食べる青年を眺める。

スイーツ用の小さめのスプーンで少しずつプリンをすくい上げ、ちびりちびりと口へ運ぶ。

今まで見てきた任務中の慌ただしい食事風景が嘘のように、ゆっくりゆっくり。

味わい尽くすように食べ進めていくさまは、好物を大事に大事に食べる、幼い子供を連想させた。

「邪魔、しちゃったかしら?」

「何をですか?」

「あなたの時間を。」

「そんな事は。」

顔を上げたテオフィルが、ふるふると首を振って否定する。

握っていたスプーンを置くと腕を組み、少し頭を傾けてから再びジェラルダインを見上げた。

「ここには、たまに来るんです。

部屋にいると、気が滅入ってしまって。」

「そうなの。」

「はい。もっと、長い時間が取れるなら、チャレンジでも行くのですが。」

「テオフィルは意外と活動的ね。」

「そうですか? 暇な時間が、苦手でして。」

うーんと頭を傾けてから、再びスプーンを手に取る。

今度はプリンではなく添えてあるチェリーを脇に寄せると、スプーンで器用に割って半分だけ口へ入れた。

それをもごもごとゆっくり味わってから、再び口を開く。

「ここのホットケーキ、おいしいですよ。

他も、スイーツは全部、手作りだそうです。」

「それは楽しみね。」

少し微笑んでから、ジェラルダインは厨房へと顔を向ける。

そろそろ良い香りが漂ってきた。

それはきっと招待状

こつこつこつ、と規則的な音が辺りに響く。

それは、硬い靴底が石造りの床を打つ音。

こつこつこつ、こつこつこつ。

止まることなく、淡々と。

一定間隔で、規則正しく。

普段はあまり気にならないが、ウォパル海底の閉鎖空間だとどうしてこうも自己主張するんだろう。

こつこつこつ、こつこつこつ、こつこつこつ。

心地よいリズム。

なんだか、眠くなってくる音だ。

頬杖を外して大きくあくびをすると、ずっと時を刻んでいた音の主が僕をみた。

怖い顔。まるで怒っているみたい。

「フィルさん……連絡はつきましたか?」

「んー、まだだね。」

頬杖を突きなおしつつ、手元のレーダーを確認する。

アークスの反応はない。

通信の受信もない。

仮にも一度反応が消えたのだ。

復活の期待なんて、正直あまりしていないけれど。

「もうかなり時間も経ちましたが。」

「まだ一時間だよ。」

そう、まだ一時間。

このパーティのリーダーとして、僕ら二人を引っ張っていたジェラルダインが姿を消してから、まだ一時間だ。

彼女が僕たちを置いて単独行動をした真意は解らないけれど、正直あまり邪魔したくもない。

一時間なんて、隠密調査をする時間としては短すぎるんだ。

まぁ、不幸にあって引き裂かれる時間としては長すぎるけれど。

じゃぁなんで未だに二人そろってお行儀よく待っているのかは……だいたい、マニのせいかな。

ぼりぼりと頭をかいていると、ずっとうろうろと辺りを歩き回っていたマニが、

突然距離を詰めて僕の前にどかっと座った。

「俺たちの方から探しに行った方が良いんじゃないですか?」

のんびりと構えている僕とは対照的に、マニはずっと落ち着かない。

僕は彼女の考えを推し量れるほど頭も観察力もよくないけれど、

もしかしたらこれを避けたかったのかな、なんて暇に任せて邪推する。

「そしたら、ジェラルダインさんはどこに戻ってくるの?」

「キャンプシップでいいですよ。メッセージを残す方法はいくらでもあります。

この場所は通信も通じますし。」

「それもそうだ。」

再び出てきたあくびを噛み殺す。

いい加減に退屈なのは否定しない。

せっかく任務なのに、せっかく現地なのに、せっかく原生エネミーもたくさんいるエリアなのに。

正直、少しもったいないと思ってはいる。

「じゃぁさ……マニは、あると思う?」

「何がですか?」

「通信の届かないところ。この惑星の、このエリアに。」

「それは……。」

マニがぐっと口を結び、顎を引く。

別にいじわるで聞いてるわけじゃない。

もしもそんな場所がないならば、しょうがないからだ。

僕たちが行ったところで、しょうがないからだ。

あてもなくさまよって殺戮の限りを尽くす、なんてのもいささか悪くはないが、

そんな事をして後で上に怒られるのは僕である。

僕は、演技とかうまくないもの。

「……それを調べるための時間を、俺に下さい。」

真面目な顔を僕へ向けてくる。

こんなマニを見れるなんて珍しい。

普段はもっと、ふわふわしたよく解らない感じなのに。

僕もあまり他人の事はいえないけれど。

「じゃぁさ、約束しよう。」

「……どんな?」

「体の一部でも見つけられたら、そこでおしまい。一緒にシップまで帰ろう。」

「それを、”約束”ですか。」

ふっと僕から目をそらして、マニが笑う。静かに。多分、それは苦笑だ。

僕は多分、無表情。いつも通り。

「うん。これを”指示”には、したくないかな。」

すこし、微笑んで見せた、つもりになる。

上手くできたかは、しらない。

「……フィルさん、友達いないでしょ。」

「それ、何度聞いたら気が済むの?」

「いえ、ほんとは沢山いるのかと思って。」

良く解らないことを言いながら、マニが微笑む。

今度は、さっきよりは自信がありそうな微笑みだ。

でも僕の方は、こんな時にどんな顔を返して良いのか解らない。

 

相変わらずレーダーにアークスの反応はないし、彼女からの通信も入ってこない。

でもこれから、待った分だけ暴れられるのだと思うと、少しだけ気分が明るくなった。

ペーパークラフト

それは、なんてことない日だった。

なんてことない日に起こった、なんてことない出来事。

多分僕は、すぐに忘れてしまうと思う。

でもできれば、どこかに残せればな、なんて。

残したことも、僕はきっと忘れてしまうけれど。

 

任務のために、いつも通りにロビーへ行く。

集合時間よりも少し早い。

しょうがない。

部屋にいたところで、やることなんてないのだから。

ショップエリアにでも足を延ばして、アイテムラボにでも顔を出そうか。

スキルリングショップも良い。

こういう細かい暇つぶしは、外の方が豊富だ。

雑踏の存在も、気がまぎれて僕にはありがたい。

ウェポンショップに並んだ新品の武器を横目で見つつ、

そろそろ買い替え時かな……などと他愛もないことを考えながら、人の間をぬってあるく。

こういうのは、思いついたときに行動しなければ。

まだ使えるから、とぐだぐだ後回しにしてはいつまでたっても旧型のままだ。

なんて、はるか後方になったウェポンショップへ思いをはせてもしょうがないのだが。

 

そんな僕の、いつもの散歩道。

普段の無意味な散歩道。

 

ふと視線を動かすと、オープンカフェに座った青年と目が合った。

マニだ。

一人で優雅にコーヒーを飲んでいる。

そうだ確か、次の任務で一緒だったはず。

「あ、フィルさん。お疲れ様です。」

笑顔でひらひらと手を振られる。

こう反応されては無視もできない。

僕はへたくそな笑顔を浮かべながら、心地よい雑踏を抜けて彼のそばへと歩み寄った。

「お疲れさま。」

「どうしたんですか、こんなところで。

そろそろ集合時間ですよ。」

「お前もね。」

「はは、おっしゃる通り。コーヒー、買ってきましょうか?」

「いや、大丈夫。」

カフェの椅子とは言え、別に買わなければ座っちゃいけないなんて決まりはないだろう。

僕はゆるりとコーヒーをたしなむマニの、向かいの椅子に腰を下ろす。

別に長居をする気はないのだけれど、立ったままなのもなんだか悪い気がして。

マニはいつからここにいるのだろう。

僕も短くはない時間をふらついて過ごしていた気もするけれど、もしかしたら彼も同じなのだろうか。

「そうだ、フィルさん。もしも気が向けばの話なんですけど。」

「うん?」

「ちょっと俺の事応援してくださいよぉ。……なーんて。」

「応援?」

唐突な申し出に、思わずマニの顔をまじまじと見る。

多分僕はいま、きょとんとした顔をしてるんだろう。

対するマニはいつもと変わらない、普通の笑顔だ。

へこむような事でもあったのだろうか……などと少ない知恵をしぼって推測してみるものの、

見た限りでは普段とまったく変わらない。

いや、あったところで、鈍い僕に気づかれるようなマニではないか。

相変わらず何を考えているのかわからない。

わからないけれど、言うだけでいいのであれば。

「がんばれよ。」

「…………。」

これで良いのだろうか。

本人の希望どおりに言ったつもりだけれど。

少し不安になって、マニの目をのぞき込む。

マニはしばらく目を丸くして僕を見ていたけれど、突然背をそらして椅子にもたれ、声を出して笑いだした。

「いえ、すみません、何も聞かずに言ってもらえるとは思わなくて。ははっ、ありがとうございます。」

腹を抱えて笑うマニ。

それまでの笑顔との違いは、僕にはわからない。

でもきっとこれで良かったのだろうと、からからと笑うマニをみながらなんとなく思いなおした。

「じゃぁ、行こうか、そろそろ時間だよ。ジェラルダインさんが待ってるし。」

「え、ジェリーもう来てたんですか?」

「うん、さっき見かけたから。」

「あちゃー、知ってたらもっと早く行動したんですけどね。」

マニはさっと立ち上がりてきぱきと食器を片付け、私物を片付けこちらを見る。

僕は大した仕事もないくせに、マニの準備が終わったのを確認してから腰を上げた。

 

集合場所につくころには、きっと時間ぴったりだろう。

さぁ、任務だ。

デューマンとブレイバーとバトルフィールド

頼み事なんてされたのは久々だった。

しかも相手はあのマニ。

あの、借りも貸しも妙によく覚えている男が、頼み事。この僕に。

最初に言われたとき、二度聞き返した後、思わず笑ってしまいそうになった。

その時見せてくれたきまり悪そうな顔は、いくら僕でもしばらくは忘れない気がする。

長生きはするものだ。

まぁ大した歳でもないけど。

 

で、その頼み事というのは、どういう訳か後輩のお守りである。

いったいどういう風の吹き回しかと聞き返せば、

マニと同程度の実力の同期がギリギリ勝てた程の実力者らしい。

そして、さらに上を。

良くある話だ。

悪いとは言わない。

だが、面白みはあまりない。

それほど奇抜な奴ではないのだろう。

それでも、暇つぶしにはなるだろうか。

僕は、休日であれば相手をしてもかまわないと返した。

そして当日を迎えたのが、今である。

 

「アーディスと申します、よろしくお願いいたします!」

真面目な顔で一息に言い、勢いをつけて頭を下げる。

一つに結んだ赤い髪がぶわっと舞った。

なぜ髪なんて伸ばしているのだろう、とぼんやり思う。

邪魔だろうに。

「僕はテオフィル。こちらこそよろしく。」

挨拶もそこそこに、踵を返してVRへ移動する。

他に話すことも特にないうえ、そもそも戦闘を目的に呼び出されたのだ。

これでかまわないだろう。

けれども三歩後ろを歩く少年は、遠慮がちに話しかけてくる。

「本日はお忙しい中、ありがとうございます。」

「うん。」

「アンドラスさんがお勧めする先輩と戦う事が出来るこの日を、とても楽しみにしておりました。」

アンドラス、という奴は知らない。

話で聞いたマニの同期だろうか。

フォースだというのは聞いたような気がする。

そうだ、テクターのマニとフォースの同期が気にする後輩なのであれば、

やはり法撃職なのだろうかと考えたのを覚えている。

フォースかテクターまたはバウンサーもしくはサモナーか……と。

「君は、ブレイバーなんだね。」

「はい。配属時からずっとブレイバーをやっております。

テオフィルさんも、ブレイバーですか?」

「そうだよ。」

「それは、学び甲斐がありそうです。」

どうだか。

泥臭い僕の戦い方を見たところで、大して参考になんてならないだろうに。

「テオフィルさんは、刀は使われますか?」

「いや、全然。」

「そうですか……。

その、先日、前回の模擬戦闘訓練の偏差値が出ましたよね。

もう受け取られました?」

「うん。」

「俺の偏差値は、54.96でした。」

「へぇ……その年で。強いんだね、君。」

50ぐらいが中堅どころの奴らの数値……だっただろうか。

54はどれぐらいだったろう。

あまりよく覚えていない。

「テオフィルさんの数値を、お聞きしてもよろしいでしょうか?」

「僕? うーん……60ぐらいだったかな。」

「60!?」

「まぁ、あの評価は実践じゃあまりあてにならないから。」

そう、あくまでも訓練。

内容も、単調で予測しやすいものばかりだった。

偏差値とやらが高い奴ほど任務でやくにたつ、なんて実感もない。

あてにするようなものでもないだろう。

そんな僕の素直な気持ちを伝えたはずなのに、アーディスは眉間にしわを寄せ黙り込む。

何か悪い事でも言ってしまったのだろうか。

わからない。

こういう時だけは、マニの察しの良さが少しだけうらやましくなる。

 

「じゃぁ、訓練を始めようか。」

訓練用フィールドの両端に立つ。

無機質なフィールド。

これで役者が平凡ならつまらない舞台にしかならないが。

「君が刀を使うなら、僕もそうしようかな。」

ちょうど、予備の刀は持っている。

普段から念のために常備している奴だ。

戦闘で握るのがいつ以来かは、ちょっと覚えていないけど。

「……よければ、全力で、お相手を、願いたいのですが。」

絞り出すような声。

見れば、睨むように僕を見ている。

また何か怒らせるような事を言ってしまったのだろうか。

わからない。

まったく、面倒なことだ。

「もし扱い方を覚えていなかったら、その時にまた考えるよ。」

柄を握ると、すっと手になじむ。

当たり前だ、僕が自分で選んだのだから。

 

そういえば、手加減はした方が良いのだろうか。

一回りも年下の後輩に本気を出すのも、滑稽だろうか。

しかしその結論を出すよりも早く、僕の足は床をけっている。

ただ、感じるままに。

取らなければならない休日にも、武器を握れることに感謝しつつ。