アークス・バトルグラウンド part1

PM 2:31

生存人数:12人

西部・集落エリアにて

 



前触れなんて何もなかった。

ただ味気ないほどに唐突に、とん、と足裏に感覚が戻ってきただけ。

この宇宙には存在しない新天地に降り立った感覚は、それっぽっち。

バランスを崩す暇すらないぐらい、自然な一瞬だった。

テレポゲートを使わない転送なんて早々味わえないためちょっと期待していたけれど、

何も変わらない、いつも通りだ。

妙な負荷がかかって調子が狂わないというのは、とても素敵だと思う。

 

肌をなぶる風と潮のしょっぱい匂いを感じたのはその直後。

わくわくしながら目を開けると、そこにあったのはさびれた集落だった。

地図で見た時点で手漕ぎボート用なんじゃないかと疑いたくなるようなささやかな港と、

それを囲むところどころに塩害が見え隠れする10件程度の家々。

そしてその向こうには木の茂った小さな丘と、起伏のある草原。

中々素敵な島じゃないか。

何にもなくて、まさに風光明媚って感じ。

ホラー映画とかで出てきそう。

「わぁー……きもちいぃ~!」

ぐっと腕を広げて伸びをする。

温暖な地域なのだろう、熱すぎない日差しと寒すぎない潮風が心地よい。

田舎の港町、いいものだ。

美味しいお魚は無いだろうか。

新鮮なものは塩をふって火であぶるだけで美味しい。

アンドラスがいれば、お刺身に出来る魚も見分けてくれるだろうか。

るんるん気分で歩を進め、申し訳程度に舗装された小石だらけの道を歩く。

そう遠くない場所でちゅんちゅんぴちぴちと鳥が鳴いていた。

まるで午後の散歩のようだ。

この演習が終わったころには晩御飯にも良い時間。

何を食べようかと考えていると、あっという間に港についた。

集落と言っても、港の近くにあるのは倉庫ばかり。

そしてどれもからっぽだ。

船も網も釣り竿もないし、小腹は満たせそうにない。

無人島でのサバイバル演習と聞いて、ちょっとだけ期待していたんだけど。

「んー……。やっぱり観光はあんまできないかぁ。」

ため息交じりに呟いて、けれども吹き付ける潮風はやはり心地良くて。

深呼吸のように反り返って、吐いた息をもう一度大きく吸い込んだ。

3回ほど繰り返してようやく満足する。

たまにはこうしてのんびりするのも良いものだ。

満足しながら踵を返すと、つま先にこつんと何かがあたった。

堅い感触。

それはボールのように転がって、硬い音を響かせる。

食べやすい果物みたいな手のひらサイズ。

見た事もない家の建つ見た事もない島だけど、これはなんだか見慣れた感じがした。

手の中で転がしもてあそぶと、しっくり馴染む感覚がある。

そう、それはまるで

「なんだろこれ。グレネードみたい。」

静かな集落にころがるグレネードだなんて物騒極まりないが、

確かそんなルールの演習だったはずだ。

ずっしりと必要以上に重い感触に違和感はあるけれど、古いものだからだろうか。

もしくは普段私が使うようなグレネードとは違う種類のものなのかもしれない。

アークスとして支給される兵器は、偏ったものばかりだから。

もしも攻撃用グレネードだったら、それはとても素敵だけど。

試しに投げてみたかった。

性能の解らない武器なんてどうせ役に立たないし、この一個目は観賞用にしよう。

二個目が手に入る保証もないけれど、こっちの方が景気がいいし、それにわくわくする。

マニュアル見るのは面白くないし。

攻撃用かもしれない事を考えると、見学席とは距離がほしい。

でもあまり遠いとせっかくのお披露目が台無しだ。

旧式だし上に登って距離を稼げばいいだろうか。

民家の二階なんてどうだろう、ベランダに丈夫な柵があるところ。

そこから投げ落とせば効果は一目瞭然だ。

窪地ならもっといい。もしくは周りに木が多い所。

そういう場所なら、後からでも火力がよく解る。

そんな事を考えながらぶらぶらと集落を散策する。

 

正直あまり期待はしていなかったけど、

この小さな集落で条件に見合った民家を見つけられたのは幸いだった。

裏手のベランダの下に木も数本生えている。文句なしだ。

念のため、玄関扉をコンコンとノックする。

誰もいないはずだし、気配も感じないのは解っているけど。

「おじゃましまーす……。」

ゆっくりと扉を開け、中に入る。

右正面に階段、その左には並ぶように奥へ続く廊下。

その先、開いた扉からはリビングと水回りの諸々が見える。

荒れてはいないが生活感はない。

まるで夜逃げしたみたいにもぬけの殻。

人はいないから遠慮なく入れ、というメッセージだろうか。

建物の中には物資が配置されているはずだし、少し調べてみようか。

私は念のため扉を開けたまま、靴も脱がずにゆっくりと民家に入った。

床がきしんで音をたてたりはしなかった。

それで敵に見つかっても困るけど。

念のためざっと歩き回って、誰も潜んでいない事を確認する。

室内にもやはり一般的な小物はなかった。

残念、お弁当でもあればピクニックができたのに。

ふと、無造作に置かれた見慣れない銃が目に留まる。

ヤスミノコフ3000Rに少し似ていた。

握った感覚もそっくり。新人アークス時代を思い出して少し懐かしくなる。

隣に置いてあるのは弾と、それに二本の筒がつながったようなもの。

こちらも見慣れないものだ。

手に取ると、やはりずっしりと重く武骨だが、無造作に揺れる赤いストラップが少し可愛い。

両端にはレンズがはめこまれているようだ。

試しに覗き込むと、レンズ越しに見る物はどれもとても小さく見えた。

なんだろう、何に使うものだろう。

さっぱり解らない。

けれどもこういう訳の解らないものこそ、アンドラスの好物だ。

捨てずに持っていけば、もしも会えた時にはしゃいだ姿が見れるかもしれない。

生真面目な彼と戦闘にならなければの話だけど、まぁ楽しみは多いに限る。

 

うきうきと戦利品を担ぎ上げて、二階へ移動する。

こちらにも人はいないようだ。物資もたいしたものはない。

それらを確認してから、私はようやく目的地であるベランダへと足を踏み入れた。

見晴良好、風も穏やか。良い実験日和だ。

両腕を上げてうーんと伸びをしてから、先ほどのグレネードを取り出した。

手になじむ感覚は何度持っても変わらない。

さて、このアークスのものよりずっと武骨なグレネード、一体どんなものなんだろう。

面白い人であってほしい。

たとえば、今まで私が見たことも無いような。

 

コンコン、あなたは誰ですか――。

宙を舞うグレネードに、微笑みながら問いかける。