月別アーカイブ: 2016年9月

スイーツ・タイム

その場所は、いわゆるカフェだった。

決して大きくはない通りに面した、小ぢんまりとして温かなカフェ。

ショップエリアの片隅、他のエリアと行き来できるテレポーターにほど近い場所にあるので、

たまに前を通る程度でも、ガラス越しにちょくちょく見知った顔を見かけた。

有名ではないし洒落てもいないけれど、静かで一人や少人数でのんびりしするのに良い、

なんて声も時折彼女の耳に入るほどだった。

もっとも、甘いスイーツの看板を店先に出すカフェだ。

話題に出すのも、実際に見るのも、ほとんどが若い女性アークスだったが。

 

普段ならば、ただ前を通り過ぎるだけの店。

けれどもその時、彼女は少々の暇を持て余していた。

用事が前倒しで終わり、次の任務まで中途半端に時間が空いてしまったのだ。

こんな時でなければ、縁のない店かもしれない。

そう思ったジェラルダインは、木を模して造られた温かなカフェの扉を引いたのだった。

 

扉をくぐり、さっと店内を見渡す。

外装から想像できる通りの、温かな店内。

その一角に見知った顔を見つけ、ジェラルダインは思わず口を開いた。

「あら、テオフィル。」

女性ばかりの店内に、唯一存在する幅広の肩が少し上がる。

続いて短い黒髪の頭が持ち上がり、肩越しにジェラルダインを振り返った。

向けられた瞳はいつも通りに眠そうな光を放っていたが、少しだけ見開かれていただろうか。

「……あ、お疲れ様です。」

「お疲れ様。相席、いいかしら?」

「はい、どうぞ。」

答えを確認したジェラルダインは、小さな丸いテーブルをはさんだ反対側に回り椅子を引く。

タイミングを見計らってやってきたウェイターにコーヒーを一杯注文したのち、

ふと向かいのテオフィルの手元に目をとめた。

「あと、そうね、おすすめのスイーツは?」

「当店のお勧めは、こちらのホットケーキでございます。」

壮年のウェイターがメニューに載った写真を示す。

そこには真っ赤なソースと色とりどりのベリーが添えられた、見栄えの良いスイーツが写っていた。

テオフィルが食べているものとは違うようだが、任務前のエネルギー補給として悪くない。

それも一つ、と注文すると、ウェイターは一つ頭を下げてから厨房へと下がっていった。

その背を見送ってから、うつむき加減だったテオフィルが少し顔を上げる。

「……ジェラルダインさんって、案外食べるんですね。」

「そう? 体が重いからかしら。」

太っているという意味ではない。

重いキャストパーツを背負っているからという意味だ。

それを解っているのかいないのか、そうなんですか、と曖昧な返事が返ってくる。

そして再び、手元のスプーンを動かし始めた。

「それはプリン?」

「はい。」

「お気に入りなの?」

「結構。」

「私もそれにすればよかったかしら。」

お愛想として言いながら、プリンを食べる青年を眺める。

スイーツ用の小さめのスプーンで少しずつプリンをすくい上げ、ちびりちびりと口へ運ぶ。

今まで見てきた任務中の慌ただしい食事風景が嘘のように、ゆっくりゆっくり。

味わい尽くすように食べ進めていくさまは、好物を大事に大事に食べる、幼い子供を連想させた。

「邪魔、しちゃったかしら?」

「何をですか?」

「あなたの時間を。」

「そんな事は。」

顔を上げたテオフィルが、ふるふると首を振って否定する。

握っていたスプーンを置くと腕を組み、少し頭を傾けてから再びジェラルダインを見上げた。

「ここには、たまに来るんです。

部屋にいると、気が滅入ってしまって。」

「そうなの。」

「はい。もっと、長い時間が取れるなら、チャレンジでも行くのですが。」

「テオフィルは意外と活動的ね。」

「そうですか? 暇な時間が、苦手でして。」

うーんと頭を傾けてから、再びスプーンを手に取る。

今度はプリンではなく添えてあるチェリーを脇に寄せると、スプーンで器用に割って半分だけ口へ入れた。

それをもごもごとゆっくり味わってから、再び口を開く。

「ここのホットケーキ、おいしいですよ。

他も、スイーツは全部、手作りだそうです。」

「それは楽しみね。」

少し微笑んでから、ジェラルダインは厨房へと顔を向ける。

そろそろ良い香りが漂ってきた。