月別アーカイブ: 2016年8月

それはきっと招待状

こつこつこつ、と規則的な音が辺りに響く。

それは、硬い靴底が石造りの床を打つ音。

こつこつこつ、こつこつこつ。

止まることなく、淡々と。

一定間隔で、規則正しく。

普段はあまり気にならないが、ウォパル海底の閉鎖空間だとどうしてこうも自己主張するんだろう。

こつこつこつ、こつこつこつ、こつこつこつ。

心地よいリズム。

なんだか、眠くなってくる音だ。

頬杖を外して大きくあくびをすると、ずっと時を刻んでいた音の主が僕をみた。

怖い顔。まるで怒っているみたい。

「フィルさん……連絡はつきましたか?」

「んー、まだだね。」

頬杖を突きなおしつつ、手元のレーダーを確認する。

アークスの反応はない。

通信の受信もない。

仮にも一度反応が消えたのだ。

復活の期待なんて、正直あまりしていないけれど。

「もうかなり時間も経ちましたが。」

「まだ一時間だよ。」

そう、まだ一時間。

このパーティのリーダーとして、僕ら二人を引っ張っていたジェラルダインが姿を消してから、まだ一時間だ。

彼女が僕たちを置いて単独行動をした真意は解らないけれど、正直あまり邪魔したくもない。

一時間なんて、隠密調査をする時間としては短すぎるんだ。

まぁ、不幸にあって引き裂かれる時間としては長すぎるけれど。

じゃぁなんで未だに二人そろってお行儀よく待っているのかは……だいたい、マニのせいかな。

ぼりぼりと頭をかいていると、ずっとうろうろと辺りを歩き回っていたマニが、

突然距離を詰めて僕の前にどかっと座った。

「俺たちの方から探しに行った方が良いんじゃないですか?」

のんびりと構えている僕とは対照的に、マニはずっと落ち着かない。

僕は彼女の考えを推し量れるほど頭も観察力もよくないけれど、

もしかしたらこれを避けたかったのかな、なんて暇に任せて邪推する。

「そしたら、ジェラルダインさんはどこに戻ってくるの?」

「キャンプシップでいいですよ。メッセージを残す方法はいくらでもあります。

この場所は通信も通じますし。」

「それもそうだ。」

再び出てきたあくびを噛み殺す。

いい加減に退屈なのは否定しない。

せっかく任務なのに、せっかく現地なのに、せっかく原生エネミーもたくさんいるエリアなのに。

正直、少しもったいないと思ってはいる。

「じゃぁさ……マニは、あると思う?」

「何がですか?」

「通信の届かないところ。この惑星の、このエリアに。」

「それは……。」

マニがぐっと口を結び、顎を引く。

別にいじわるで聞いてるわけじゃない。

もしもそんな場所がないならば、しょうがないからだ。

僕たちが行ったところで、しょうがないからだ。

あてもなくさまよって殺戮の限りを尽くす、なんてのもいささか悪くはないが、

そんな事をして後で上に怒られるのは僕である。

僕は、演技とかうまくないもの。

「……それを調べるための時間を、俺に下さい。」

真面目な顔を僕へ向けてくる。

こんなマニを見れるなんて珍しい。

普段はもっと、ふわふわしたよく解らない感じなのに。

僕もあまり他人の事はいえないけれど。

「じゃぁさ、約束しよう。」

「……どんな?」

「体の一部でも見つけられたら、そこでおしまい。一緒にシップまで帰ろう。」

「それを、”約束”ですか。」

ふっと僕から目をそらして、マニが笑う。静かに。多分、それは苦笑だ。

僕は多分、無表情。いつも通り。

「うん。これを”指示”には、したくないかな。」

すこし、微笑んで見せた、つもりになる。

上手くできたかは、しらない。

「……フィルさん、友達いないでしょ。」

「それ、何度聞いたら気が済むの?」

「いえ、ほんとは沢山いるのかと思って。」

良く解らないことを言いながら、マニが微笑む。

今度は、さっきよりは自信がありそうな微笑みだ。

でも僕の方は、こんな時にどんな顔を返して良いのか解らない。

 

相変わらずレーダーにアークスの反応はないし、彼女からの通信も入ってこない。

でもこれから、待った分だけ暴れられるのだと思うと、少しだけ気分が明るくなった。