月別アーカイブ: 2016年6月

ペーパークラフト

それは、なんてことない日だった。

なんてことない日に起こった、なんてことない出来事。

多分僕は、すぐに忘れてしまうと思う。

でもできれば、どこかに残せればな、なんて。

残したことも、僕はきっと忘れてしまうけれど。

 

任務のために、いつも通りにロビーへ行く。

集合時間よりも少し早い。

しょうがない。

部屋にいたところで、やることなんてないのだから。

ショップエリアにでも足を延ばして、アイテムラボにでも顔を出そうか。

スキルリングショップも良い。

こういう細かい暇つぶしは、外の方が豊富だ。

雑踏の存在も、気がまぎれて僕にはありがたい。

ウェポンショップに並んだ新品の武器を横目で見つつ、

そろそろ買い替え時かな……などと他愛もないことを考えながら、人の間をぬってあるく。

こういうのは、思いついたときに行動しなければ。

まだ使えるから、とぐだぐだ後回しにしてはいつまでたっても旧型のままだ。

なんて、はるか後方になったウェポンショップへ思いをはせてもしょうがないのだが。

 

そんな僕の、いつもの散歩道。

普段の無意味な散歩道。

 

ふと視線を動かすと、オープンカフェに座った青年と目が合った。

マニだ。

一人で優雅にコーヒーを飲んでいる。

そうだ確か、次の任務で一緒だったはず。

「あ、フィルさん。お疲れ様です。」

笑顔でひらひらと手を振られる。

こう反応されては無視もできない。

僕はへたくそな笑顔を浮かべながら、心地よい雑踏を抜けて彼のそばへと歩み寄った。

「お疲れさま。」

「どうしたんですか、こんなところで。

そろそろ集合時間ですよ。」

「お前もね。」

「はは、おっしゃる通り。コーヒー、買ってきましょうか?」

「いや、大丈夫。」

カフェの椅子とは言え、別に買わなければ座っちゃいけないなんて決まりはないだろう。

僕はゆるりとコーヒーをたしなむマニの、向かいの椅子に腰を下ろす。

別に長居をする気はないのだけれど、立ったままなのもなんだか悪い気がして。

マニはいつからここにいるのだろう。

僕も短くはない時間をふらついて過ごしていた気もするけれど、もしかしたら彼も同じなのだろうか。

「そうだ、フィルさん。もしも気が向けばの話なんですけど。」

「うん?」

「ちょっと俺の事応援してくださいよぉ。……なーんて。」

「応援?」

唐突な申し出に、思わずマニの顔をまじまじと見る。

多分僕はいま、きょとんとした顔をしてるんだろう。

対するマニはいつもと変わらない、普通の笑顔だ。

へこむような事でもあったのだろうか……などと少ない知恵をしぼって推測してみるものの、

見た限りでは普段とまったく変わらない。

いや、あったところで、鈍い僕に気づかれるようなマニではないか。

相変わらず何を考えているのかわからない。

わからないけれど、言うだけでいいのであれば。

「がんばれよ。」

「…………。」

これで良いのだろうか。

本人の希望どおりに言ったつもりだけれど。

少し不安になって、マニの目をのぞき込む。

マニはしばらく目を丸くして僕を見ていたけれど、突然背をそらして椅子にもたれ、声を出して笑いだした。

「いえ、すみません、何も聞かずに言ってもらえるとは思わなくて。ははっ、ありがとうございます。」

腹を抱えて笑うマニ。

それまでの笑顔との違いは、僕にはわからない。

でもきっとこれで良かったのだろうと、からからと笑うマニをみながらなんとなく思いなおした。

「じゃぁ、行こうか、そろそろ時間だよ。ジェラルダインさんが待ってるし。」

「え、ジェリーもう来てたんですか?」

「うん、さっき見かけたから。」

「あちゃー、知ってたらもっと早く行動したんですけどね。」

マニはさっと立ち上がりてきぱきと食器を片付け、私物を片付けこちらを見る。

僕は大した仕事もないくせに、マニの準備が終わったのを確認してから腰を上げた。

 

集合場所につくころには、きっと時間ぴったりだろう。

さぁ、任務だ。