月別アーカイブ: 2016年5月

デューマンとブレイバーとバトルフィールド

頼み事なんてされたのは久々だった。

しかも相手はあのマニ。

あの、借りも貸しも妙によく覚えている男が、頼み事。この僕に。

最初に言われたとき、二度聞き返した後、思わず笑ってしまいそうになった。

その時見せてくれたきまり悪そうな顔は、いくら僕でもしばらくは忘れない気がする。

長生きはするものだ。

まぁ大した歳でもないけど。

 

で、その頼み事というのは、どういう訳か後輩のお守りである。

いったいどういう風の吹き回しかと聞き返せば、

マニと同程度の実力の同期がギリギリ勝てた程の実力者らしい。

そして、さらに上を。

良くある話だ。

悪いとは言わない。

だが、面白みはあまりない。

それほど奇抜な奴ではないのだろう。

それでも、暇つぶしにはなるだろうか。

僕は、休日であれば相手をしてもかまわないと返した。

そして当日を迎えたのが、今である。

 

「アーディスと申します、よろしくお願いいたします!」

真面目な顔で一息に言い、勢いをつけて頭を下げる。

一つに結んだ赤い髪がぶわっと舞った。

なぜ髪なんて伸ばしているのだろう、とぼんやり思う。

邪魔だろうに。

「僕はテオフィル。こちらこそよろしく。」

挨拶もそこそこに、踵を返してVRへ移動する。

他に話すことも特にないうえ、そもそも戦闘を目的に呼び出されたのだ。

これでかまわないだろう。

けれども三歩後ろを歩く少年は、遠慮がちに話しかけてくる。

「本日はお忙しい中、ありがとうございます。」

「うん。」

「アンドラスさんがお勧めする先輩と戦う事が出来るこの日を、とても楽しみにしておりました。」

アンドラス、という奴は知らない。

話で聞いたマニの同期だろうか。

フォースだというのは聞いたような気がする。

そうだ、テクターのマニとフォースの同期が気にする後輩なのであれば、

やはり法撃職なのだろうかと考えたのを覚えている。

フォースかテクターまたはバウンサーもしくはサモナーか……と。

「君は、ブレイバーなんだね。」

「はい。配属時からずっとブレイバーをやっております。

テオフィルさんも、ブレイバーですか?」

「そうだよ。」

「それは、学び甲斐がありそうです。」

どうだか。

泥臭い僕の戦い方を見たところで、大して参考になんてならないだろうに。

「テオフィルさんは、刀は使われますか?」

「いや、全然。」

「そうですか……。

その、先日、前回の模擬戦闘訓練の偏差値が出ましたよね。

もう受け取られました?」

「うん。」

「俺の偏差値は、54.96でした。」

「へぇ……その年で。強いんだね、君。」

50ぐらいが中堅どころの奴らの数値……だっただろうか。

54はどれぐらいだったろう。

あまりよく覚えていない。

「テオフィルさんの数値を、お聞きしてもよろしいでしょうか?」

「僕? うーん……60ぐらいだったかな。」

「60!?」

「まぁ、あの評価は実践じゃあまりあてにならないから。」

そう、あくまでも訓練。

内容も、単調で予測しやすいものばかりだった。

偏差値とやらが高い奴ほど任務でやくにたつ、なんて実感もない。

あてにするようなものでもないだろう。

そんな僕の素直な気持ちを伝えたはずなのに、アーディスは眉間にしわを寄せ黙り込む。

何か悪い事でも言ってしまったのだろうか。

わからない。

こういう時だけは、マニの察しの良さが少しだけうらやましくなる。

 

「じゃぁ、訓練を始めようか。」

訓練用フィールドの両端に立つ。

無機質なフィールド。

これで役者が平凡ならつまらない舞台にしかならないが。

「君が刀を使うなら、僕もそうしようかな。」

ちょうど、予備の刀は持っている。

普段から念のために常備している奴だ。

戦闘で握るのがいつ以来かは、ちょっと覚えていないけど。

「……よければ、全力で、お相手を、願いたいのですが。」

絞り出すような声。

見れば、睨むように僕を見ている。

また何か怒らせるような事を言ってしまったのだろうか。

わからない。

まったく、面倒なことだ。

「もし扱い方を覚えていなかったら、その時にまた考えるよ。」

柄を握ると、すっと手になじむ。

当たり前だ、僕が自分で選んだのだから。

 

そういえば、手加減はした方が良いのだろうか。

一回りも年下の後輩に本気を出すのも、滑稽だろうか。

しかしその結論を出すよりも早く、僕の足は床をけっている。

ただ、感じるままに。

取らなければならない休日にも、武器を握れることに感謝しつつ。