月別アーカイブ: 2015年2月

探り合い

「おっ、噂をすれば!おーい、ここだここ!」

横の男が片手を振りながら腰を浮かす。

視線をたどると、真っ直ぐこちらへ歩いてくる少年二人の姿があった。

場所は事前に伝えているため、わざわざ声などかけなくても解っているはずだが、

一々声を上げるのはこの男なりの礼儀だろう。

この声が届いたのだろうか。

小走りに俺達の側まで来た二人は、テーブルの横でぴしりと踵をそろえた。

「マニさん、アンドラスさん、申し訳ありません。お待たせしました?」

「何言ってるの、約束の時間ぴったりじゃない。

俺達はちょっと先に集まって、雑談に花を咲かせてただけさ。ねぇあんちゃん。」

「ああ。普段中々会えない分、積もる話があってな。」

「そういう事!」

俺とマニの言葉に、二人がほっと息を付く。

けれどもすぐにまた背筋を伸ばすと、二人同時に頭を下げた。

「本日は宜しくお願いします。」

「アーディスと申します。宜しくお願いいたします。」

「宜しく頼む。」

「よろしく。アルゴスは知ってるけど、アーディスは初めましてだね。

俺はマニウェル。短い間だけど宜しくね。」

再び立ち上がったマニが右手を差し出す。

アーディスは一瞬間を置いてから、マニの手を握った。

表情はない。

ただ、声だけははきはきとしている。

「はい。ご指導の程、宜しくお願いいたします。」

「うん。じゃぁとりあえず座って。二人共、アンドラスとは面識あるよね。」

「はい、ありますよ。」

「ええ。」

「なら早速本題だ。今日の任務だけど……。」

にこにこと微笑みながら、マニが話を切り出す。

パーティーリーダーであるマニが全て仕切ってくれるため、俺は高みの見物だ。

いやそれこそが今回の俺の役割ではあるのだが。

他愛のない雑談をはさみながら、流暢に話し続けるマニ。

時折相槌をうち、時折質問を投げつつ熱心に聞くアルゴス。

まるで見極めようとするかのように、じっとマニを見つめるアーディス。

こんな探るような視線を受けていては、さぞ話しづらいだろう。

などと、いつも通りの笑顔を保つマニの心中を察してみる。

「……それで道中なんだけど、アルゴスとアーディスは前衛、アンドラスは後衛ね。まぁ普通でしょ。」

「マニさんはどちらに?このエリアで前衛三人は少し多い気もしますが……。」

「俺?俺は適当かな!出番がありそうな方へ行くよ。」

アーディスの眉がぴくりと動く。

ずっと仏頂面であったせいか、その小さな動きがやたらと目立つように感じた。

それはマニも気づいたようで、穏やかな顔をアーディスへ向ける。

「ん、アーディス、どうしたの。何か疑問でもあった?」

「あ、いえ……。」

「何かあるなら遠慮なく聞いちゃって!

コミュニケーション不足は事故の元だからね。

俺はね、こんな細々とした任務で死ぬ気は無いし、お前達を死なせる気もないんだよ。」

にこにこと笑うマニから、アーディスはふいと視線をそらす。

そのまましばらく視線をさまよわせたアーディスは、やがて迷ったような顔をこちらへ向けた。

何も言わずに頷いて見せる。

すると、ぐっと顔を引き締めてマニへと向き合った。

相変わらず真っ直ぐな奴だ。

この素直さが、常に発揮されれば誰も苦労はしないのだが。

「マニウェルさん、その陣形が崩れてしまった場合はどう対処すればよろしいでしょうか。」

「んー、突然のエネミーとかなら臨機応変にとしか言えないねぇ。

俺もなるべくすばやく把握して指示を出すつもりだけど、

そう言うときって一々俺の言葉を待つよりも各自の判断で動いたほうが早いし適切だったりするでしょ。

お前たちももう新人じゃないんだしさ。」

「では、誰かがあえて陣形を崩した場合は?」

爛々と目を輝かせながら、アーディスが問う。

先ほどまでの仏頂面とは違う、今にも噛みつかんばかりのギラギラした表情だ。

隣のアルゴスが、何も言わず目を伏せる。

マニは意図を掴みかねたのか、いぶかしげにこちらを振り返った。

つかめなくて、あたりまえだ。

初対面のパーティメンバーから、ここまで唐突に疑惑を向けられる事なんてそうそうないに違いない。

俺は小さな携帯端末に記事を表示し、テーブルの下でマニだけに見えるよう差し出した。

『パーティメンバー4人中3人が殉職。原因はパーティリーダーの暴走か』……。

「……んー、そう言うのはその時々によって変わるかもしれないけど、俺の方針としてはねぇ。」

マニが笑う。にっかりと笑う。

こういう表情のときのマニは、何を考えているのか俺にはさっぱり解らない。

ただ時折、同期よりも少し早く出世の階段を駆け上がった苦労と、苦悩を感じるぐらいか。

そういうどす黒い感情を、こいつはいつも笑顔で隠す。

理不尽な事も笑っていればだいたい心の折り合いがつく、とかわけの解らないことを以前言っていたっけ。

「そいつは見捨てて、残りの3人で生き抜けるように動こう。

たった1人……理由は色々あるかもしれないけど、結果的に馬鹿をしたたった1人のために、

優秀な、もしくは将来有望な3人がわざわざ道連れになるなんて、アークスとしても手痛い出費だ。

一々付き合う気は、俺には無いよ。これでも命は惜しいからね。」

「では……。」

「もしも俺がおかしな事をしはじめたら、その時はあんちゃんに指示をあおいで。

もしくはお前たち2人で生き延びて、アークスシップまで帰ってきて。

任務中のお前たちの最優先事項は、自分の命。これ、リーダー命令ね。覚えておいて。」

マニとアーディスが見詰め合う。

にらみ合っては、いなかった。

厳しい表情のアーディスを、マニが柔らかい笑顔で受け止めている。

しばらくそうした後、アーディスがゆっくりと目を伏せた。

「かしこまりました。そのようにします。」

「うん、そうして。」

にっこりとマニが笑う。

アーディスはぷいと顔を背けた。

 

その後も一つ二つ情報を共有してから、そろそろ時間だとマニが出発の手続きをしに行った。

パーティリーダーが退席して緊張が解けたのだろう。

マニがいなくなると、アーディスとアルゴスはほっとした顔で手足を伸ばし体をほぐし始めた。

その様子を少し笑ってから、声をかける。

「アーディス。」

「はい、何か。」

「どうだ、マニウェルは。感想は?」

少々ばつの悪そうな顔を見せたアーディスは、考えるように視線を漂わせる。

そして再びこちらを向くと、はにかむように微笑んだ。

「……敵に回したくない人だと、思いました。」

「はは、それは俺も同感だ。」

「俺もですね。」

三人で笑う。

一時はひやひやしたが、和やかな二人の顔を見て俺は密かに息をついた。

この調子なら、任務も問題なくこなせるだろう。

「まぁ悪い癖はいくつもあるが、頭は切れる奴だ。悪いようにはしないさ。」

それだけ言って、俺も立ち上がる。

見ると、噂のマニが小走りでこちらへ戻ってくるところだった。

特別な客人

まだ少し湿った長い髪に櫛をとおし、ゆっくりとすべらせる。

櫛はなんの手ごたえもなく、髪の間をすうっと流れた。

綺麗な髪だ。

細くて真っ直ぐで、手に乗せると指の間からさらさら滑り落ちる。

それに、とても良い香り。

おそらくヘアソープの……薔薇の香り、だろうか。

こんな香りのするヘアソープを使っているなんて、正直意外だ。

けれども、女性らしいなとも思う。

本人は普段香水なんてつけないせいか、この香りがやたらと俺の意識を刺激してならない。

たかがヘアソープの香り一つで、である。

お前はどこのチェリーボーイだ、と自分を笑いたくなる。

「はい、完了。こんなでどう?」

「ええ、ありがとう。」

「前も言ったかもしれないけど、本当に綺麗な髪だよね。

なめらかで、つやがある。まるでベルベットみたいだ。」

「そうかもしれないわ。」

手元の武器に視線を落としたジェリーから、にべもない返事が来る。

俺が彼女の髪に心を奪われている間、本人はずっと武器の手入れに夢中だ。

これではすぐに研磨剤の匂いが髪に染みついてしまうだろう。

なんて色気のない。

しかし、彼女らしい。

俺は少し苦笑して、ソファを回り込み彼女の隣に座った。

借りた櫛はテーブルに置いておく。

「それで、分析はどう?」

「まだね。あと五分ほど時間を頂戴。」

「了解。お茶でも淹れようか?」

「結構よ。……あなたが飲みたいと言うなら淹れるけど。」

「いやいや、元々押しかけてきた身だからね。そこまで面倒をかける気はないよ。」

「そう。」

熱心にランチャーを磨き上げながら、ジェリーはまた気の無い声を返してきた。

頭を働かせるとき、彼女はよくこうして武器を磨く。

以前理由を聞いたときに帰ってきた理由は、扱いなれた物が手元にあると集中できる。

俺はいまいちピンと来ないが、世の中には武器は己の体の一部と歌う者もいるぐらいだ。

抱えていれば集中できる、なんて人がいてもそれほどおかしくはあるまい。

時間を持て余した俺は、集中しきったジェリーの横顔をなんとはなしに眺める。

何度見ても綺麗な人だ。

まるで人形のよう。

いやキャストだから間違ってはいないのだろうが。

「……なに?」

「ああ、いや。その、さ。」

ふいとこちらを見たジェリーと目が合ってしまう。

なんだか気恥ずかしくて、咄嗟に話題を探す。

「あの、これは俺のお願いなんだけど。」

「なにかしら。」

「俺をここに留まらせるなら、その、着替えない?」

こちらを向いたままのジェリーが、ぱちくりと目を瞬かせる。

ジェリーが今着ているのは薄い部屋着。

同性や恋人ならまだしも、ただの友人止まりの異性の前で着るのに相応しい服装ではない。

少なくとも、目のやりどころに困る。

いやその今彼女が発しているほかほかとした湯気やボディソープの香りと共にまとうのに、適してはいるのだが。

「なぜ?」

「いやなぜってさ、俺が部屋に来てるんだからさ。」

「腕力の話なら私の方が強いでしょう。」

「いやそうなんだけどさ……。」

歯切れ悪く視線をさまよわせる。

俺が尋ねて来たとき、部屋の扉を開けたジェリーが、この明らかに風呂上りという空気をまとっていた事に

まったく動揺しなかったと言ったら嘘になる。

おかげで髪に触らせてもらえはしたが。

「ジェリーさ、誰が来てもそんな感じなの?」

「さぁ。」

「いやいや俺は本気で聞いてるんだけど。」

「どうだったかしら。」

ふっとジェリーが笑った気がする。

けれどもそれを確かめるまもなく、ジェリーは武器を置きすいと立ち上がった。

「分析完了したわ。データは送っておくわね。」

「あ、ああ、ありがとう。助かるよ、夜遅くにゴメンね。」

「いいえ。この程度ならいつでも構わないわ。他ならぬマニの頼みだからね。」

「はは、ジェリーにそう言ってもらえるなんて光栄だなぁ。じゃぁ用事も済んだし撤収しますかっと。」

ジェリーが玄関まで送ってくれる。

微笑む瞳の奥は、キャストのバイザーが消えても俺には上手く計れない。

チョコの行方

「俺にくれるの?ありがとう、美味しくいただくよ。」

今日こう言ったのは何回目だろう?

笑顔を貼り付けて、これ以上ないほど爽やかに。

一時期にくらべりゃだいぶ減ったが、それでも面倒に思えてくる程度には多い。

まぁ仕方ないか、リーダーやってると色々目立つからな。

そのせいか、以前よりも義理の割合が多い。

しかしそういう対象にもなっているようで、真面目なものもちらほらあるようだ。

まぁ俺は平均と比べても若いし、仕方がないか。

面倒だ。ああ面倒だ。

アンドラスは毎回うまく断っているらしいが、俺が真似ると重く取られがちで困る。

多分俺はそういう、軽いイメージなんだろう。

ここ数年は毎回こうやって頭を抱えているので、一応改めようとはしているのだが、どうにもうまくいっていないようだ。

もしかしたら根っからそういうキャラなのかもしれない。

……どこのアイドルだ、俺は。

「チョコレート、ねぇ……。」

ロビーの椅子に座り、テーブルに戦利品を置く。

数は軽く十、いや十五だろうか?

俺みたいな軽くて適当で口と人当たりばかり上手い、まぁ一言で表せば悪い男に引っかかるようじゃ先が心配だ。

今もパーティ組んでる部下とかなら、なんとかして指導でも入れたいレベルである。

でもそう言う子は俺が直接言っても通じないだろうなぁ。

ああ面倒臭い。

一人で頭を抱える。

そう言えば前にもこうしてチョコの山を前に頭を抱えていたら、アンドラスに笑われた事があったっけ。

その時は、自業自得、そう切捨てられた。

反論も出来ない。

そんなやりとりを今更思い出して、俯いたまま少し笑った。

「あら、マニ。ここにいたのね。」

「ん?」

慌てて顔を上げると、いつの間にいたのか、すぐ脇に見慣れたキャストの女が立っていた。

任務帰りなのだろうか。

体は戦闘用のいかついキャストボディで、背には武器も携えている。

少し動くと、かすかに煙の匂いが漂った。

色気はないが彼女らしく、どんな香水よりも魅力的な匂い。

「あれ、ジェリーじゃない。任務帰り?お疲れさま!」

「ええ。そちらも。」

ジェリーがテーブルを挟んだ向かいの椅子に座る。

別に俺は任務帰りというわけではないのだが。

まぁいいやそう言うことにしておこう。

「その山は、今日の戦利品かしら?」

「ははは、まぁその、ちょっともらいすぎちゃってね。どう消化しようか困ってるところだよ。」

「自業自得でしょう。」

まぁそうだよな。

俺もそう思う。

「そう言わないでさぁ。俺これでも結構真面目に悩んでるの。」

「食べられないものがあると大変ね。」

食べられないわけではない。

が、苦手だし同じようなもんか。

ジェリーがくれたものならまた考えるのだが、そんなものは望むべくもない事はよく知っている。

どれだけ探りを入れても男っ気がせず、男女の事情にも興味がないどころかむしろ面倒臭そうな反応を示すジェリーだ。

俺だけは特別にそう言う対象として映っているかも、なんて自惚れるほど俺は馬鹿じゃない。

ああ、やめよう。

なんか虚しくなってきた。

「ところでジェリー、今日はどうしたの?何か俺に用事?」

「ええ。伝言を預かっているわ。送信するわね。」

まぁそんなところである。

ジェリーの方から俺のところに来るなんて、用事がなければありえない。

そんな事はもうとっくに知っている。

「……うん、確かに承った。わざわざありがとう。」

「いいえ。では私は。」

それだけ言って立ち上がるのも、俺の予想通り。

そしてここからは俺の踏み込み次第だ。

呼び止めて、また食事にでも誘おうか、それとも……。

「ねぇ、そのチョコレートだけれど。」

「ん、これ?」

意外にもジェリーの方からしかけてくる。

めずらしい。

「ええ。あなた、確か甘いものは苦手だったわね。」

「ああ、覚えてた?」

「なら私が貰っても良いかしら?」

一瞬思考が停止する。

そう来るとは思わなかった。

いやそんな事は今はどうでも良い。

それは、さすがにそれは……。

「でもこれ、もらい物だし。そのままそっくりジェリーにあげちゃうのはさすがにさぁ……。」

「あなた、これを全部一人で食べるのかしら?」

「いやそれはちょっと無理だけど……。」

「なら多少私がもらってもかまわないでしょう?」

真顔でこちらを見つめてくる。

どうやら本気のようだ。

彼女はそんなにチョコが好きだったのだろうか?

そういった話はあまり聞かないが、もしそうなら……用意しておけば良かった。

後の祭である。

いやもしかしたら今からでも。

「ねぇジェリー、チョコがほしいのなら今からでも俺がプレゼントするよ?

ジェリーのためのやつを選んでさ!」

「わざわざ選ばなくても、ここに沢山あるでしょう。」

ダメだった。

いやむしろ今のは完全に悪手だ。

じっと見つめられる。

上手い逃げの口上は、ああ、思いつかない。

「まぁ、そうだね……。食べてくれるのなら、ジェリーにあげるよ。全部。」

「ありがとう。」

嬉しそうにジェリーが笑う。

それはほころぶ花のよう。

そんな顔を見せられては、俺の後ろめたさがさらに重くなってしまう。

やっぱり横流しはやめて、彼女のために何か用意しようか。

「ではもらっていくわね。美味しく頂くわ。」

声が少し弾んでる。めずらしく。

ああもう、これじゃ何も言えやしない。

俺は曖昧な笑顔を浮かべて、別れの挨拶を適当に交わす。

ジェリーを見送った後、一人で頭を抱え後悔したのはまた別の話。

怒ったりなんてしないよ

ひゅぅと息を吸う。

体の力は極力抜いて、自然体でいたつもりだけれど、横のコイツはびくりと俺を見た。

何を大げさな。

俺は冷静だ。

そう今だって。

こう、目の前の相手に対して、いつも通りに笑えるほど冷静だ。

声だって、ほら、いつもどおり。

疑うなら試してやろう。

ほら行くぞ、さん、にい、いち。

「それは……。」

「報告はそれだけか?

ならばもう下がって良い。今のうちに休んでおけ。先ほどの話はきちんとパーティメンバーに伝えて置けよ。

あと、お前は少々私語が過ぎる。以後は慎め。」

遮られた。

意外だ。

そんなに俺は信用ないのだろうか。

金と女以外では、こいつからは絶対の信頼をもらっていると思っていたのに。

いや、女は絡んでいたか。

こいつが今も覚えているかは解らないが……まぁ、覚えてそうだな。

反吐が出る。

いやでも、少しばかり責めたって良いだろうか。この場合。

アイツが十分離れた事を確認してから、俺はアンドラスを振り返る。

「……ちょっとあんちゃん、これは酷いんじゃないの?」

「なんの話だ? アイツは全てを報告しきった。これ以上、こちらの都合で引きとめる理由はない。

時間と体力の無駄だ。限りあるリソースをあえて無駄にする事はないだろう。

こういう小さな事の積み重ねが有事の際に響いて来るんだ。」

「感情的になるのも無駄だって?」

「……今はな。」

「へいへい、ご忠告ありがとさん。」

「あのな、仮にもお前は今3パーティを率いているんだぞ?」

「解ってマース。」

痛い痛い、耳に痛い。

こいつの言う事は一々正論だ。

とても痛い。

だが、第三者なのもあって的を射ている。

飲み込まなければ。

少し落ち着こうと、用意してきた水筒から水を飲む。

生ぬるい水が喉を落ちた。

「……悪いな。お前にばかり汚れ役を押し付けていると、思うよ。」

「うん? 急に何?」

再び振り返る。

けれどもアンドラスはもうこちらを見ていなかった。

背中を向けて、見ているのは……ああ、自分のパーティメンバーか。

ちびっこ三人。

でもうち一人は相当な実力者で、相当扱いづらいと聞く。

こいつに預けられた理由も、きっと何かあるんだろう。

察するに、上からの信頼の結果だ。

胸を張っても良いはずなのに、こいつの顔は暗い。

「今だって、そうだ。」

「なに、何の話?」

「毎日、大変だろ。」

毎日?

ああ、そうか。

「あれ、あんちゃん階級ちょっと低い事気にしてたの?

意外だなぁ、こんな面倒な事ゴメンだって思ってるんだと勘違いしてた。」

「そんなものは御免だ。だがなんと言うか、な……。」

「別にお前が気に病む必要は無いだろ。

ただ俺がちょっとうまく立ち回りすぎて、上りすぎちゃっただけでさ。

お金はいくらでもほしいもんねー。あ、次の考課面接で吹聴しようと思ってる口上聞く?」

「いらん。」

いつも通りの返答に、思わず笑い声が漏れる。

そうだ、アンドラスはこうやって生真面目につんつんしているほうが良い。

じゃぁ俺は?

笑っていれば、良いのかな?

弱音は、まぁそのうち?

「悪いな、気を使わせてさ。もう大丈夫、覚悟はとっくにしてきたしさ。

あ、そろそろ休憩終わりの時間?」

「ん、ああ、そうだな。」

立ち上がる。

採掘基地の黄色い風がぶわっと体に押し寄せた。

さぁ、弔い合戦の始まりだ。

沢山のアークスと、沢山のダーカーのために。

そして、一昔前に俺を愛してくれた人のために。