月別アーカイブ: 2014年7月

キミの言葉が聞きたいよ

あったかーいシャワーをあびて、ふわふわのタオルで髪を拭く。

何度きても、ここのバスルームはとても綺麗で快適だ。

清潔な家は水まわりからとかそんな話を何処かで聞いたけれど、ここはまさにそれを実践している。

ぴかぴかのバスルームはかすかに良い香りがして、温かいお湯も合わさると疲れなんてふっとんでしまう。

もう自分の部屋には帰りたくないなぁなんて照れくさい事を考えながら、

体を拭いてパジャマを着て鏡でちょっと髪を直す時間は、私のお気に入りのとても幸せな時間だった。

「あがったよー。」

石鹸の良いにおいを感じながら脱衣所を出て、ちょっと広めのリビングを見回す。

するとすぐに、もう見慣れた紺の癖っ毛が目に入る。

でも同じように見慣れている黄色い目は見えない。

目をつむってソファに深く座り腕をくんで、うつらうつらと船をこいでいた。

「寝てるの?」

小さめに声をかけつつ近寄ってみる。

俯き気味の顔を覗き込んでも、なんの反応も返ってこない。

ただ、穏やかな寝顔だけがそこにあった。

めずらしい。

いつもいつもきっちりしている彼が、こんなところで寝てしまうなんて。

余程疲れているのだろうか。

これは起こさないほうがいいかもしれない。

でも。

「でも、ここだと風邪引いちゃうわ。」

誰にともなく言ってから頭を回す。

これはなにか、掛けるものがほしい。

寝室から持って来よう。

静かに、でも急いで寝室に行き、軽めのブランケットをもってくる。

ひろげると、ふわりと洗剤の香りが立ち上る。

私はまたちょっと幸せな気分になりながら、そのブランケットを彼の体にそっとかけた。

「ん……。」

「あ、ごめん、起こしちゃった?」

紺の癖っ毛が持ち上がり、黄色い目が見えてくる。

でも目の開き方がなんだかやわらかい。

とてもとても眠そうだ。

「いや……いいよ。こんなところで寝たら明日に響くし。」

「ん?んん?」

とても穏やかで優しい声。

顔をのぞきこむと、とろんとしたあどけない表情がそこにある。

寝ぼけているのだろうか。

きっとそうだ、そうに違いない。

「あの、それなら、ベッドに行こう?立てる?」

「うん、立てるよ、大丈夫。」

手で隠しながら小さくあくびをする。

いつもは私に見せない表情だ。

それが見れたことが、見せてくれた事がとても嬉しくて、私はちょっと笑った。

けれどもその後すぐに、彼は背もたれからぱっと身を起こす。

さっきとは違う、はっきりした表情をして。

見方によっては、少しこわばっていたと言うか、照れているような感じもしたけれど。

「……あの。」

「なぁに?」

「……大丈夫です、その、立てるので。」

「うん、今聞いた。」

にこにこしながら答えると、彼の頬が赤くなる。

隠すように顔をそむけると、そのまま手のひらに顔をうずめてしまった。

なんだか可愛い。

「なんでそこまで照れるのよぅ。」

「いや、なんと言うか……。」

「アルやあー君にはいつもその口調じゃない。」

「まぁそうなんですけど……。」

ベッドの上でもあんな感じの口調だった気がする。

多分、あれが地なんだろう。

「私は今みたいなアンドラス、もっと見たいな。」

「……まぁ。」

再び顔がこちらを向く。

むっすりと不機嫌な表情をしているけれど、まだ少し頬が赤い。

笑いかけると、まだ少し湿った私の頭をぐりぐりとなでられた。

「わ、なに?」

「ブランケット、ありがとうございます。」

そう言うや否や、立ち上がって寝室にひっこんでしまう。

その背中を少し笑ってから、私はブランケットを拾って追いかける。

「まってまって、置いてかないでよ。私もそっちで寝るんだから。」

「寝るならもっとちゃんと髪を乾かしてくださいよ。寝具にカビが生えます。」

「解ってるわよ!でもなんだか締め出されそうで不安なのよ!」

「いや締め出しませんよそんな……。待っててあげますから、早く乾かしてきなさい。」

両手のブランケットを押し付けて、にこっと笑ってみせる。

するとすぐに、はにかむような笑顔が返ってきた。

ああ、幸せだなぁ。