月別アーカイブ: 2014年3月

そんなに喜ぶなんて思わなかったから

「あのぉ……何やってるんですか?」

いつもは見上げる位置にある頭を、見下ろしながら話しかける。

するとずっと下を向いていたであろう顔がくるりとこちらを向き、にへっと笑った。

目つきが鋭いせいでどちらかと言うと人相が悪いほうに入る人だが、笑うと随分印象が変わる。

なんというか、子供みたいな笑い方をするのである。

すまし顔とのギャップに、最初はずいぶん笑った。もちろんこっそりと。

「ああ……その、ゴメンね。少し掃除を。」

「あー、えっと、すみません、こんなに汚いルームに呼んで。そんなに気になりました?」

「ああいや、そう言う訳じゃないんだ。」

少し苦笑してから立ち上がる。

すると、無残にも砕け散った、マグカップらしきものが視界に入った。

まさに粉々だ。

だがかろうじてわかる柄からして俺のじゃない。

「ゴメン、今度代わりのものを買ってくるよ……。」

「いや、いいですよ。コレもう古いんで、ほっといてもそろそろ割れたと思います。ヒビ入ってたし。」

意識して淡々と告げながら、大きめの欠片を拾い上げる。

見慣れた柄の断片がこちらをみあげた。

適当に買ったはずなのに、ずっと見る羽目になったのを何度恨んだ事か。

「掃除も、俺達がやるんで大丈夫です。それより、あなたがコップを割った事に驚きました。考え事でも?」

「いや、ちょっとパンがね。」

「ああ。じゃあ次の出撃のときにでも付き合ってもらう事にします。」

「そうしてくれると嬉しいよ。」

「そのパンさんは?」

「止める前に逃げちゃってね。行き先は予想がついてるから、後できつく言っておくよ。」

「じゃあ俺からもよろしくと伝えておいてください。」

「解った。本当にごめんね。」

軽く頭を下げてくる。

年下の俺相手なのに律儀な人である。

 

いつもよりも少し早足で出て行く背中を見送ってから、欠片の側にしゃがみこむ。

さて、これを大切にしていたルームメイトにどう伝えるか。

俺としては、もっとちゃんとしたものをあげる口実になって有難い限りなんだが。