カテゴリー別アーカイブ: 出会いの話

探り合い

「おっ、噂をすれば!おーい、ここだここ!」

横の男が片手を振りながら腰を浮かす。

視線をたどると、真っ直ぐこちらへ歩いてくる少年二人の姿があった。

場所は事前に伝えているため、わざわざ声などかけなくても解っているはずだが、

一々声を上げるのはこの男なりの礼儀だろう。

この声が届いたのだろうか。

小走りに俺達の側まで来た二人は、テーブルの横でぴしりと踵をそろえた。

「マニさん、アンドラスさん、申し訳ありません。お待たせしました?」

「何言ってるの、約束の時間ぴったりじゃない。

俺達はちょっと先に集まって、雑談に花を咲かせてただけさ。ねぇあんちゃん。」

「ああ。普段中々会えない分、積もる話があってな。」

「そういう事!」

俺とマニの言葉に、二人がほっと息を付く。

けれどもすぐにまた背筋を伸ばすと、二人同時に頭を下げた。

「本日は宜しくお願いします。」

「アーディスと申します。宜しくお願いいたします。」

「宜しく頼む。」

「よろしく。アルゴスは知ってるけど、アーディスは初めましてだね。

俺はマニウェル。短い間だけど宜しくね。」

再び立ち上がったマニが右手を差し出す。

アーディスは一瞬間を置いてから、マニの手を握った。

表情はない。

ただ、声だけははきはきとしている。

「はい。ご指導の程、宜しくお願いいたします。」

「うん。じゃぁとりあえず座って。二人共、アンドラスとは面識あるよね。」

「はい、ありますよ。」

「ええ。」

「なら早速本題だ。今日の任務だけど……。」

にこにこと微笑みながら、マニが話を切り出す。

パーティーリーダーであるマニが全て仕切ってくれるため、俺は高みの見物だ。

いやそれこそが今回の俺の役割ではあるのだが。

他愛のない雑談をはさみながら、流暢に話し続けるマニ。

時折相槌をうち、時折質問を投げつつ熱心に聞くアルゴス。

まるで見極めようとするかのように、じっとマニを見つめるアーディス。

こんな探るような視線を受けていては、さぞ話しづらいだろう。

などと、いつも通りの笑顔を保つマニの心中を察してみる。

「……それで道中なんだけど、アルゴスとアーディスは前衛、アンドラスは後衛ね。まぁ普通でしょ。」

「マニさんはどちらに?このエリアで前衛三人は少し多い気もしますが……。」

「俺?俺は適当かな!出番がありそうな方へ行くよ。」

アーディスの眉がぴくりと動く。

ずっと仏頂面であったせいか、その小さな動きがやたらと目立つように感じた。

それはマニも気づいたようで、穏やかな顔をアーディスへ向ける。

「ん、アーディス、どうしたの。何か疑問でもあった?」

「あ、いえ……。」

「何かあるなら遠慮なく聞いちゃって!

コミュニケーション不足は事故の元だからね。

俺はね、こんな細々とした任務で死ぬ気は無いし、お前達を死なせる気もないんだよ。」

にこにこと笑うマニから、アーディスはふいと視線をそらす。

そのまましばらく視線をさまよわせたアーディスは、やがて迷ったような顔をこちらへ向けた。

何も言わずに頷いて見せる。

すると、ぐっと顔を引き締めてマニへと向き合った。

相変わらず真っ直ぐな奴だ。

この素直さが、常に発揮されれば誰も苦労はしないのだが。

「マニウェルさん、その陣形が崩れてしまった場合はどう対処すればよろしいでしょうか。」

「んー、突然のエネミーとかなら臨機応変にとしか言えないねぇ。

俺もなるべくすばやく把握して指示を出すつもりだけど、

そう言うときって一々俺の言葉を待つよりも各自の判断で動いたほうが早いし適切だったりするでしょ。

お前たちももう新人じゃないんだしさ。」

「では、誰かがあえて陣形を崩した場合は?」

爛々と目を輝かせながら、アーディスが問う。

先ほどまでの仏頂面とは違う、今にも噛みつかんばかりのギラギラした表情だ。

隣のアルゴスが、何も言わず目を伏せる。

マニは意図を掴みかねたのか、いぶかしげにこちらを振り返った。

つかめなくて、あたりまえだ。

初対面のパーティメンバーから、ここまで唐突に疑惑を向けられる事なんてそうそうないに違いない。

俺は小さな携帯端末に記事を表示し、テーブルの下でマニだけに見えるよう差し出した。

『パーティメンバー4人中3人が殉職。原因はパーティリーダーの暴走か』……。

「……んー、そう言うのはその時々によって変わるかもしれないけど、俺の方針としてはねぇ。」

マニが笑う。にっかりと笑う。

こういう表情のときのマニは、何を考えているのか俺にはさっぱり解らない。

ただ時折、同期よりも少し早く出世の階段を駆け上がった苦労と、苦悩を感じるぐらいか。

そういうどす黒い感情を、こいつはいつも笑顔で隠す。

理不尽な事も笑っていればだいたい心の折り合いがつく、とかわけの解らないことを以前言っていたっけ。

「そいつは見捨てて、残りの3人で生き抜けるように動こう。

たった1人……理由は色々あるかもしれないけど、結果的に馬鹿をしたたった1人のために、

優秀な、もしくは将来有望な3人がわざわざ道連れになるなんて、アークスとしても手痛い出費だ。

一々付き合う気は、俺には無いよ。これでも命は惜しいからね。」

「では……。」

「もしも俺がおかしな事をしはじめたら、その時はあんちゃんに指示をあおいで。

もしくはお前たち2人で生き延びて、アークスシップまで帰ってきて。

任務中のお前たちの最優先事項は、自分の命。これ、リーダー命令ね。覚えておいて。」

マニとアーディスが見詰め合う。

にらみ合っては、いなかった。

厳しい表情のアーディスを、マニが柔らかい笑顔で受け止めている。

しばらくそうした後、アーディスがゆっくりと目を伏せた。

「かしこまりました。そのようにします。」

「うん、そうして。」

にっこりとマニが笑う。

アーディスはぷいと顔を背けた。

 

その後も一つ二つ情報を共有してから、そろそろ時間だとマニが出発の手続きをしに行った。

パーティリーダーが退席して緊張が解けたのだろう。

マニがいなくなると、アーディスとアルゴスはほっとした顔で手足を伸ばし体をほぐし始めた。

その様子を少し笑ってから、声をかける。

「アーディス。」

「はい、何か。」

「どうだ、マニウェルは。感想は?」

少々ばつの悪そうな顔を見せたアーディスは、考えるように視線を漂わせる。

そして再びこちらを向くと、はにかむように微笑んだ。

「……敵に回したくない人だと、思いました。」

「はは、それは俺も同感だ。」

「俺もですね。」

三人で笑う。

一時はひやひやしたが、和やかな二人の顔を見て俺は密かに息をついた。

この調子なら、任務も問題なくこなせるだろう。

「まぁ悪い癖はいくつもあるが、頭は切れる奴だ。悪いようにはしないさ。」

それだけ言って、俺も立ち上がる。

見ると、噂のマニが小走りでこちらへ戻ってくるところだった。

フォトンの刃に魅せられて

初めて切ったのは、ナベリウスの原生種だった。

弾力のある皮は刃を引けば簡単に切れ、俺と同じ赤い血が吹き出る。

だが肉の方は思いの外堅く、刺さった刃を引き抜くのには少し苦労した。

赤い血溜りから鉄臭い匂いが立ち上る。

刃を抜いた勢いで、もう動かない肉の塊がごろんと転がった。

踵を返して別のエネミーと向き合いながら、改めて思う。

ああ、これが生き物を切る感触か。

鳥肌が立った。

 

ナベリウス原生種の次に切ったのは、ダーカーだった。

確かダガンだったと思う。

黒光りする外骨格は堅くすべすべしていて中々刃が通らない。

焦れた俺は武器が傷むのもかまわずに、力任せに刃をたたきつける。

案外簡単に足が一本切れた。

黄色い液体がこぼれ出る。

ダガンの外骨格は、堅いがとても薄かった。

これなら、きちんとやれば次は切れるかもしれない。

刃の角度を意識して、振る。切れた。振る。切れた。

足を全部切ってやると、ちょろちょろ動き回っていたダガンがようやく大人しくなる。

最後に胴体を真っ二つにしてみた。

黄色い液体と、なにかどろりとしたものが水溜りをつくる。

青臭い匂いが鼻をついた。

上手く切れるようになったのが嬉しくて、俺は一人でくすりと笑う。

 

アムドゥスキアの龍族は、鱗がとても切りづらい。

体躯のわりに胴体が細い奴がおおいから、一太刀でも入れられればかなりダメージが入るはず。

だがその一太刀が入れられない。

あんまり切れないものだから、足を止めて調べてみる。

奴らの鱗は、角のようなものが並んでいるようなイメージらしい。

ならばと切らずに突いてみる。

すんなり刃がめり込んだ。

そのまま抜かずに右へ薙ぐ。

血と臓物があふれ出た。

こぼれた細長い臓物は、本で見た俺達の腸そっくりで。

他の臓器も似てるのだろうか。

わくわくしながら武器を構える。

 

今日も刃を振るうため、自分の力を試すため、任務、任務、また任務。

上からの評価はとても良い。

当然だ、あれだけエネミーを切っているのだから。

そろそろ別の惑星への降下許可も下りるかもしれない。

そしたらまた新しい世界が見られる。

そこにはどんな生き物が住んでいるのだろう。

俺の腕は、通用するだろうか。

いや、させるようにするために、今日も俺は自分を磨く。

「……なぁ、アルディス。お前、ちょっと働きすぎじゃね? たまにはゆっくり休もうぜ。」

ルームメイトのアルゴスが、控えめに声をかけてくる。

心底心配している表情だ。

一体何を心配する事があるのだろう。

だって俺は。

「大丈夫さ。今は任務が楽しくて楽しくて仕方がないんだ。

このカタナ一本でどこまで上れるのか、考えるだけでわくわくするよ。」

少しだけ声が上ずる。

顔は多分笑ってるだろう。

目の前のこいつはそんな俺をしばらく眺め、やがてすうっと顔をそらす。

「そっか……。なら、いいけどさ。でも、自分の事は大事にしろよ。」

「解ってるよ、そんな事。」

「本当かぁ?」

アルゴスの最後の一言は、いつも通りの、下らない事を言い合う時の声だ。

俺も下らない事を言い合うときの笑顔をしてみせる。

「本当さ。見ててよ、すぐにどこかで噂になるぐらい強くなってやるからさ。」

左手で武器を握る。

そうだ、今は任務が楽しくて楽しくてしょうがない。

任務に浸かっているときは、しがらみも全て忘れられる。

このカタナを振っているときが、エネミーを切る瞬間が、俺の心を高揚させて仕方が無いんだ。